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あぁ我が酒呑み人生よ

お酒と読書とお酒

酒場のとある風景 〜薀蓄語り編〜

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今日はとある酒呑みの話を。

彼はどうやら、酒を呑みながら、

何処ぞで仕入れた薀蓄をかたるタイプらしい。

この店の酒はどうだとか、

旅先の東北で呑んだ酒はどうだったとか、

頬を朱色にしながら熱弁を振るっている。

 

 

 

 

私はお酒に関して、決して知識がある方ではないので、

「へぇ」とか「ほぉ」とか相槌を入れながら、

おもしろ、可笑しく、彼の話に耳を傾けている。

 

 

 

日本酒党を公言しているだけあって、

よい呑みぶりで、猪口を傾けていくので、

途中から手酌にしてもらった。

私からお願いしたわけではないが、

彼がそういうので、別に断る理由もなかった。

いつも手酌なんで、と笑うその顔は、

少し照れがあるのか、軽い嫌みなのか、

酒場で見かける在りきたりの笑い顔だった。

 

 

 

 

 

彼の胃袋には都合4合分の冷酒と、

お通しの ひじきの煮物、

つまみでお願いした しめ鯖といぶりがっこ

呑み始めて、まだ小一時間だが、

彼からすれば、予定通りと言うべきなのか、

お酒もおつまみも瞬く間に彼の胃袋に収まっていく。

 

 

 

 

かく言う、私も負けじとチューハイを呑んでいる。

チューハイばかり呑んでいるとトイレが近くなる。

トイレから戻ると、彼は三本目の冷酒に手を伸ばしていた。

 

 

 

 

酔いも手伝ってか、ますます饒舌になっていく。

だが、話す内容は、何処ぞで仕入れきた薀蓄ばかり。

さすがの私も会話に疲れを感じてきた。

彼の口から際限なく流れ出す薀蓄が、

渦を巻いて私を取り囲み、

負の世界に引き摺り込まれていくような、

そんな嫌な感覚がじわじわと湧き上がる。

 

 

 

 

 

どうやら、酔いが彼の一線を越えたようで、

どんどん口調が強くなり、話す内容も、

あそこの店のお酒の管理はダメだとか、

この前こんな呑み方をした常連がいたとか、

薀蓄語りから、批評家に転身したらしい。

 

 

 

 

 

 

根拠のない批評ほど虚しいものはない。

もはや、話す内容はただの愚痴である。

酔って愚痴を言いたくなる気持ちもわからないではない。

だが、たまたま二、三度同じ店で顔合わせた常連客の、

愚痴まで聴いてあげれるほど私の心は広くはない。

 

 

 

 

ヒートアップする愚痴にさすがの私も辟易し、

どうこの場を去るか、考えを巡らし始めた。

彼がトイレに立った隙にお会計を済ませ、

タイミングを見ながら、明日も仕事なのでまた、

と彼には一言伝え、逃げるように店を後にした。

出際、大将が気兼ねしたようで、

店の外まで出て「すいませんね」と一言。

大変ですね、と伝え、次の呑み屋に向かった。

 

 

 

 

 

次の店まで歩きながら、彼のことを思い出していた。

今日の私はちょっとした被害者じゃないか。

唯一の楽しみな時間を彼に奪われたのだから。

 

……

………

 

しかし、彼が日夜、 色々な呑み屋に出没し、

酔いに任せて、大いに愚痴を語り、

たまたま居合わせた常連客に被害を齎している

そんな姿を想像すると、なぜか笑えて来た。

次にあった時は、今日の愚痴を先に吐いてやろう。